但馬牛とは|神戸牛・松阪牛・近江牛のルーツと田尻号の歴史
但馬牛は、日本の和牛文化の原点です。
神戸牛・松阪牛・近江牛など、日本を代表する高級ブランド和牛の多くが但馬牛の血統をルーツに持っています。
その歴史と背景を知ることで、和牛の深さがより見えてきます。
この記事では、但馬牛とは何か、なぜ特別なのか、そして日本の和牛とどう関係しているかをわかりやすく解説します。
■ 但馬牛とは
但馬牛(たじまうし)とは、兵庫県北部の但馬地方で古くから育てられてきた黒毛和種の和牛です。
但馬地方は険しい山間部が多く、他地域との交流が少なかったため、古くから純血が守られてきました。この閉鎖的な環境が、他地域との交配を防ぎ、優れた肉質の遺伝子を維持する結果につながりました。
もともとは田畑を耕し荷物を運ぶ役牛として育てられていたため、筋繊維が細かく、脂肪がきめ細かい体質を持っています。この体質が、霜降り和牛の大きな特徴である「サシ」を生み出す重要な要素となっています。
■ 但馬牛は和牛のルーツ
和牛(特に黒毛和種)のルーツは、兵庫県北部の但馬地方で古くから飼育されていた在来牛とされています。
明治時代に入り、外国種との交配による大型化が試みられましたが、これは肉質の低下や気性の荒さなどを招き失敗に終わりました。純血の但馬牛が絶滅の危機に瀕した時代もありましたが、他の村から遠く離れた標高700mの高地で奇跡的に純血種が守られており、そこから血統の再建が始まりました。
この経験が、現在も続く「閉鎖育種」(限られた範囲内での交配による血統管理)の基盤となっています。
■ 名種雄牛「田尻号」
但馬牛の歴史を語る上で、絶対に外せない存在がいます。田尻号(たじりごう)です。
田尻号は昭和14年(1939年)、兵庫県美方郡香美町小代区の田尻松蔵さん宅で生まれました。
松蔵さんは幼い頃から牛を見る眼に優れた人物でした。田尻号の母牛「ふく江」と出会った瞬間に「この牛は特別だ」と確信し、多額の借金をしてまで手に入れたといいます。毎日欠かさず運動させ、マッサージをし、良い草を食べさせるために山を切り開いて草地まで作った。その「ふく江」が生んだ4番目の子牛が、田尻号でした。
生まれて半年後に美方郡の種雄牛候補として認められた田尻号は、昭和29年(1954年)まで約12年間にわたって活躍しました。人工授精の技術がない時代に、自然交配のみで約1,500頭の子孫を残したのです。
その子牛・孫牛は宮崎・飛騨・松阪・米沢など全国各地へ引き取られ、各地の黒毛和牛の肉質向上に貢献しました。2012年(平成24年)の全国和牛登録協会の調査では、全国の黒毛和牛の母牛の99.9%が田尻号の子孫であることが証明されています。
肉を扱う者として、この事実には純粋に感動を覚えます。私たちが毎日向き合っている和牛の、そのほぼすべてに田尻号の血が流れている。一頭の牛と、それを信じて育てた一人の人間の努力が、日本の和牛文化そのものを作ったのだと思うと、改めて肉と向き合う仕事の重さと豊かさを感じます。
田尻松蔵さんはその功績が認められ、昭和30年(1955年)に黄綬褒章を受章しています。田尻号の顕彰碑にはこのような言葉が刻まれています。
「この名牛が生まれたのは偶然ではない。自然的な要因と、人為的な条件が融合しなければ叶わなかった」
まさにその通りだと思います。
■ 神戸牛との関係
神戸牛とは、但馬牛の中でも厳しい認定基準をクリアした枝肉にのみ与えられるブランド名です。
生きている段階での「神戸牛」という牛は存在せず、但馬牛が枝肉として評価された結果、一定の基準を満たしたものだけが「神戸牛」と認定されます。つまり、すべての神戸牛は但馬牛ですが、すべての但馬牛が神戸牛になるわけではありません。
■ 但馬牛から生まれる代表的なブランド牛
但馬牛の血統をルーツに持つ、または素牛として活用しているブランド牛は数多くあります。
- 神戸牛(神戸ビーフ):但馬牛の中から枝肉評価で認定される、兵庫県を代表するブランド
- 松阪牛:但馬牛を素牛として三重県松阪地方で肥育されるブランド牛
- 近江牛:滋賀県で肥育される歴史ある和牛ブランド。但馬牛の血統を受け継ぐ
これらのブランド牛はそれぞれ独自の生産基準・肥育方法・地域の風土を持っており、但馬牛という共通のルーツを持ちながらも、異なる個性を持つブランドとして確立されています。
但馬牛は、日本の和牛文化を支える最も重要な存在です。
その血統・歴史・肉質は、長年にわたる生産者たちの努力と愛情によって守られてきたものです。
■ まとめ
- 但馬牛は兵庫県北部の但馬地方で育てられてきた黒毛和種
- 閉鎖育種によって純血が守られてきた
- 役牛として鍛えられた体質が霜降り肉の基盤になっている
- 田尻号は全国の黒毛和牛の母牛99.9%の祖先(2012年全国和牛登録協会調べ)
- 神戸牛・松阪牛・近江牛など多くのブランド牛の素牛となっている
- 但馬牛の今は、生産者たちの長年の努力によって守られてきた
但馬牛の価値は、血統だけでなく、それを守り続けてきた人々の歴史の積み重ねにある。
→ 神戸牛とは|但馬牛との違いと認定基準をわかりやすく解説
→ 和牛と国産牛の違い|実はまったく違う?わかりやすく解説
→ A5ランクとは?牛肉の等級(A5・A4)の違いとBMSをわかりやすく解説
→ 交雑種(F1牛)とは?和牛との違いをわかりやすく解説
→ 【保存版】和牛の部位を完全解説
店主兼料理長|食べログ百名店4年連続選出
東京広尾 お肉屋けいすけ三男坊
肉のカット・焼き・提供までを一貫して行い、
“人生最高の肉体験”をテーマにコースを構築。
